カウンセリング 相談ルーム KNH心療所

実在的療法

  生きるとはなんのことか
――生きるとは――
死にかけているようなものを、
絶えず自分から突き放していくことである

- フレドリッヒ・ニーチェ

 実在的療法とは実在主義と呼ばれる哲学から生まれた療法で、自分の「存在」について深く知っていく事により、状況が改善されていくという理論です。この理論は現代カウンセリングの根底となる理論で、来談者中心療法、行動療法、ゲシュタルト療法等の全ての心理療法はこの実在的療法の上に成り立っているとも言えます。それだけ、存在への探求とカウンセリングは近い行為だと言えるのかもしれません。

 実在的療法の代表的療法家はヴィクター・フランクル、ロロ・メイ、アーヴィン・ヤーロムの3人で、そろぞれ独自の理論を展開しています。また、この3人は実在主義哲学者としても有名です。

 実在的療法によると、人間が精神的問題を抱えるのは主に下記の理由からだと説いています。

避けられない死ー 私たちはどのような能力、技術があろうとも必ず死の時を迎えます。その死を恐れるあまり、現在、そして人生に対して疑問を抱くようになります。

実在的精神障害ー 周りにいくら仲の良い友達がいようとも、家族がいようとも自分を本当に分かってくれる人はいません。また、それらの人は自分の死や何かを失うという現実から開放してくれるわけでもありません。人間は常に孤独なのです。その事実に気づいた時、精神は不安定となり、様々な障害を起こすようになります。

意味の喪失ー 「何故、私たちは生きているのですか?」この質問に自信を持って答えられる人はいないでしょう。私たちが確かなのは生まれた事と死ぬ事のみです。自分の人生への意味づけが出来なく、それを長い期間持続すると望みを失い、人生に対して諦めを持つようになります。

苦悩とあやまちー 私たちの生きる世界には一つ一つの事象に決められた意味は無く、それに意味づけをするのは私たち個人です。私たちは人生という決められた時間の中、多くの事に意味づけを行わなければならなく、その自分の意味付けにより存在した物に対しての責任も持たなければなりません。その壮大な作業に気づいた時、人間は課せられた人生の作業を呪い、精神的に不安定になります。また、自分の人生に対する意味づけや価値に対する責任を取ることに失敗した場合も精神的不安定を招く要素となります。

 実在的療法は個人と世界を結びつける事にカウンセリングの焦点を当てます。その両者のギャップを埋めるには人間が本来持つ能力を使う必要があり、実在的療法カウンセリングではその能力を覚醒させる作業を主に行います。

気づきー 人間は本来、自分自身や世界に対して「気づく」という能力を兼ね備えています。気づきは必ずしも幸せを運んでくるわけではありませんが、気づく事により、自分が置かれている状況でもっとも最適な判断を下せるようになります。

信頼性と親交ー 自分が選択した事は自分に責任があります。その事に気づいた上で行った選択の結果は、どのような結果になろうとも価値あるものです。自分自身の意志により選択する事によって、今まで気づかなかった事が気づくようにもなります。

自由と責任ー 人間は基本的に自由です。どのような選択、行動、そして変化を起こそうとも、その人の判断一つです。ただ、どのような自由にでも責任はついてきます。その責任に気づいた時、人間は数ある自由の中からもっとも自分の為になるものを選ぶ事ができるようになります。

自我の覚醒ー 人間は自我の覚醒に向かって生きています。それは、自然なプロセスで止める事は出来ませんが、何かしらの理由でそのプロセスが行き詰った場合、人は羞恥心、挫折感、苦悩や人生への意味の損失に悩まされるようになります。

意味づけー 人間は常に意味を求めるものです。一つ一つの事象に良い意味づけが出来てこそ、良い人生となりうるのです。

 実在的療法はそれ自体は療法ではなく、上記に記したような内容を述べた理論・哲学です。その理論を使った代表的な心理療法としてロゴ・テラピーがあります。これはヴィクター・フランクルが開発した療法で、人の事象に関しての意味づけ作業を促進していく事により、上記に記載した精神的問題を抱える理由からクライエントを開放する事を目的としています。例えば、

「死ぬのは嫌だ」

 この考えだと、特別な意味は無く、ただ自分を死への恐怖へと追いやっているだけです。結果、不眠や自暴行為などを引き起こすこととなるでしょう。

 そこでロゴ・テラピーは「死」に関しての意味づけを促します。

「あなたにとって死とはどういう意味ですか?」

 この質問により、ただ単に恐れるのではなく、相手は「死」の持つ本当の意味を考えるようになります。死に対しての明確な意味づけをする事により、その恐怖からも開放されていくわけです。

「死とは人生を頑張った終着点という意味だと思います。」

 さて、フランクルは「恐れの恐れは恐れを助長する。」と説いています。例えば

「外に出るのが怖い、なぜなら多くの人に自分が見られている感じがするから。」

 この例だと元々は人に見られる事が嫌なのに、外に出るのも嫌というのも付け加えられてしまっています。そこで、ロゴ・テラピーでは「逆説的緊張」という技術を使ってその法則を壊します。

「外に出るのが怖い、なぜなら多くの人に自分が見られている感じがするから。」

「では、外に出てなるべく多くの人に見られてみなさい。」 (逆説的緊張)

 この逆説的緊張によって提案された行為を行った結果、大抵のクライエントは外に出ることが苦痛に感じられなくなります。なぜなら、外に出る=多くの人に見られてしまうという意味を、外に出る=多くの人に見られたいという意味に変えたからです。

 逆説的緊張の他にも「非沈思」という技術もあります。

 「非沈思,」とは、意味づけの焦点をクライエントの人生とは違う物に当てさせる技術で、希望を失った感情を持つ、クライエント等に有効です。

「死ぬのは嫌だ」

「それでは、死とは生物にとって一体どういう意味なのでしょう?」 (非沈思)

 この例では生物という言葉を使って、話題をクライエントの人生とは離れたところ移しています。こうする事により、クライエントは客観的に「死」について考えられるようになります。

 何故、実在的療法が多くの心理療法理論の基礎となっているのかお分かりいただけましたでしょうか?今という瞬間に焦点を当て、「何故?」を探求していく。その過程はカウンセリングの本質そのままだと言えると思います。

参考文献

Frankl., E., V. (1969). The will to meaning. The New American Library. Inc. NY.

Seligman, L. (2001). Systems, strategies, and skills of counseling and psychotherapy. Prentice-Hall, Inc. NJ.

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