
ゲシュタルト療法
僕のゲシュタルト療法との出会いは衝撃的でした。カウンセリングを学ばれた方なら一度はフリッツ・パールズのデモンストレーションセッションをご覧になられた事があるとは思いますが、カウンセリング中に彼はクライエントをからかい、そして本気で怒らせています。もちろん、彼にはちゃんとした意味があって行っています。
ゲシュタルトの祖であるフリッツ・パールズは現代でこそ天才的な理論と技法を持ったカウンセラーだったとして知られていますが、学校では成績常に最下位の落第生でした。しかし、心理学の祖であるフロイトとの出会いから彼の人生は大きく動いていきます。
パールズは「全ては部分を併せただけよりも大きい」と説きました。つまり、人の部分を変え、その部分を全ての中に戻した時、全てはその部分により大きく変化するものだと考えたのです。部分の変化はセラピストの誘導によるものではなく、クライエントの気づきによるものでこそ効果があると考え、セラピストはクライエントの気づきをサポートする存在であると説きました。この理論からゲシュタルト=気づきのカウンセリングとも言われています。
ゲシュタルト療法では全体、統合、バランス、3つのキーワードに焦点を当ててカウンセリングを行います。カウンセラーはまずはクライエントの全体を見、その中で問題となる部分に焦点を当て治療を行い、その部分をクライエントの全体に統合させ、後は全体のバランスを取っていくことを目標としていきます。
パールズは以下の3つの要素により人間全体の精神が歪められると説きました。
1.両極ー Yes or No、「はい」もしくは「いいえ」、これら両極端の答えを常に求め続ける事により精神のバランスが崩され、全体が歪められる
2.焦点ー 生活の中での焦点です。レストランで人と食事をしている時は会話に夢中で、後ろに流れている音楽など気にも留めませんが、自分のお気に入りの曲が流れた途端にそちらに焦点が当たり、今度は会話が耳に入らなくなるでしょう。このように、人は何か一つの事に焦点を当て、他をその焦点の背景に追いやりながら日々生活しているのです。その焦点が正確にあっていないと精神バランスの崩れる要素になります。
3.自我境界ー 外で起こっている事と中で考えている事のギャップが精神バランスを崩す要素になります。例えば、自尊心の低い人が仕事場で上司から笑顔で「今日はがんばったね!」と褒められても、その言葉通りではなく、「今までがんばってなかったんだ・・・」等と自分を傷つけるような意味で取ってしまうでしょう。
パールズはカウンセリングとは見、聞き、触り、話、動き、嗅ぎ、そして味わう事により人間が持つ防御的な4つの層を破り、最後のコアとなる層へ到達していく行為と考えました。最初に書いた、パールズがクライエントを怒らした事。それは、怒らせる事によって人間が本来持つ防御層を取り払わせようという狙いがあったわけです。怒る事により、自分が他人に対して隠していたコアな部分がほんの少し顔を出します、パールズはそれを巧みに拾い上げ、カウンセリングを次の層へと押し進めて行ったのです。
1.にせ層ー 作られた紛い物の性格で、決められた一定の性格を演じる
2.恐怖層ー 痛みを避ける。自分自身の本当の性格を曝け出す事を拒み、人からの拒絶等を受けないようにする
3.袋小路層ー 最初の2つの層が破られた為どうしたら良いのか分からなくなり、自力での問題解決を止め相手に問題解決を委ねはじめる。
4.内破層ー カウンセリングがこの層に到達すると、クライエントは自分を防御する事を止め、カウンセラーの援助により自分が変わる事を受け入れるようになります。
5.破裂層ー コア層。4の内破層で受け入れた変化を自分の中に取り込み、新たな経験へと歩み始めます。
ゲシュタルトは非常にユニークでそして多くの技法を使う事で知られています。
ー 「何?」そして「どうして?」の質問ー 「なぜ?」とは聞きません。なぜなら、「何故?」は過去に焦点があってしまい、現在の治療への効果が期待できないからです。
ー 「私」節ー 会話の頭に「私」をつけさせる事により、その会話内容に責任を持つようになります。例えば、「お母さんが私を怒らせた。」と言えば、お母さんが怒らせる事が悪く、自分にはまったく責任が無いという事になりますが、「私が怒った。」と言うと責任が自分になり「どうして怒ったのだろう?」と質の高い質問へと誘導し易くなります。
ー 文の強調ー 誰「に」話すかではなく誰「と」話すかに焦点を当てた会話法です。人が待ち合わせ時間に遅れてやってきた時に「何してたんだよ!」と言うと攻めるだけで会話になりませんが、「遅れてきて一体どうしたの?」というと相手に説明をさせる余裕を持たせる事が出来ます。また、この会話法を使う事により上から下に話すのではなく、あくまで対等な立場で会話をする事ができるようになる為、人とのより親密な関係が作りやすくなります。
ー 現在文ー 「した」ではなく「する」等の現在に焦点を当てた会話をクライエントに使わせる事により、過去の問題を現在に持ってくることができます。過去に起きた問題はどうしようも出来ませんが、現在にその問題をもってくる事により解決できるようになります。
ー 責任の奨励ー クライエントが自分の会話、行動に責任を持つように促します。他人に責任をなすりつけるのではなく、自分で責任を取る事により、クライエントはより治療に対して真摯になり自分の変化を受け入れるようになります。「私は・・・に対して責任を持つ。」等と直接的な言葉で自分の責任を明確化するのも一つの方法です。
ー 夢ー パールズはフロイトと同じく「夢は人の深層心理へ到達する為の道しるべである。」と説いていますが、フロイトとは違い、その解釈は行いません。クライエントにその夢に出てきた物や人物を実際に演じさせます。そうする事により、クライエントは夢も自分の中の一部と受け入れ、その夢の中での感情や考えを自分の中に取り入れ、さらなる高い精神レベルでの統合に対して進んでいく事が出来ます。
ー ファンタジーー クライエントの創造性を使います。クライエントは創造の世界を思い浮かべ、その世界をカウンセラーの誘導により詳しく体験していきます。全てを体験し終わった後、夢療法と同じで、そこに出てきた物やキャラクターを演じさせます。パールズはクライエントが作り出すファンタジーもその人間の一部だと考え、それを体験させる事によりさらなる高い精神レベルでの統合を目指せると考えました。
ー エンプティーチェアー 2つの椅子を用意しポジションを入れ替えながら自分自身で対話をさせます。こうする事により、クライエントは自分自身で問題の解決へと進んでいく事が出来ます。2つの椅子が定められる役割は何でもよく、自分と友達、自分の本心と現実、自分と親等、クライエントが抱えるシチュエーションにあったものが選ばれます。
ー トップドッグ・アンダードッグー トップドッグは教訓的でアンダードッグに対して色々と変化を強制します。アンダードッグはトップドッグの言う事を素直に聞きますが、変化に対して努力はしません。このトップドッグとアンダードッグを自分の中で葛藤させる事により、クライエントは自分の中の両極性を体験でき、自分の精神統合に役立てる事が出来ます。
ー ボディーメッセージへの注目ー クライエントのボディーメッセージ(会話中に足を組み、ぶらぶらと動かしたり、指を鳴らしたり等)に注目を当て、それらをさらに大きく動作させたり、その部分を演じさせたりします。
例 1 T(カウンセラー) C (クライエント)
T: Cさんは先ほどから足を組まれぶらぶらと動かされていますが、もっと大きくその動作を繰り返してもらえませんか?
C: (動作を大きくし、繰り返す)
T: どう感じましたか?
C: 何かストレスを発散できたような・・
例 2 T(カウンセラー) C(クライエント)
T: Cさんは先ほどから足をぶらぶらされていますが、その足になりきって会話をしてみて下さい。今、その足はどう感じているのですか?
C: 会話が退屈。早く先に進まないかな〜
ー 感情の位置ー 体のどの位置でクライエントが感情を感じているのかを示してもらいます。例えば、怒っている時は胸の辺りで悲しい時は顔の辺りといった具合です。そうする事により、クライエントは感情と体を一致させる事が出来ます。
ー ホットシートー 一人の人間を座らせ、その人を囲むように周りに人を座らせます。カウンセラーはその中心の一人に対してカウンセリングや質問等を行い、周りの人間はその人を観察し続け、後で自分が気づいた事をその人に伝えます。この療法によりその中心者は様々な人間の自分に対する違った視点や今まで気づかなかった行動等を知ることが出来ます。
ー 円療法ー ホットシートに座った人間が周りにいる一人一人に対してコメントをします。特殊状況に置かれた人間からのコメントにより、周りの人間は普段とは違った自分に対する視点を得ることが出来ます。
このように、ゲシュタルト療法はどれもこれも力強いものばかりですので、クライエントによって好き、嫌いが分かれる療法でもあります。クライエントとカウンセラーとの関係がしっかりと確立していないうちに使うと、そのクライエントは二度とそのカウンセラーの下に戻ってくる事はないでしょう。ゲシュタルト療法はカウンセラーにはそのユニークさから好まれていますが、クライエントには嫌われる変わった療法でもあります。実際に僕が見たデモンストレーションセッションビデオに出演しているクライエント役の女性の方も後に「パールズが一番嫌い!」とコメントしていました。
参考文献
Seligman, L. (2001). Systems, strategies, and skills of counseling and psychotherapy. Prentice-Hall, Inc. NJ.
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