第五回 学び多き体験 |
皆さん、こんにちは。カウンセラーの山名です。今回は僕が大学院生の時にしていたちょっと変わったボランティアのお話をしようと思います。僕がボランティアをした場所。それは精神病棟でした。本来ならばボランティアでは働けない場所なのですが、友達のお母さんがそこの院長だったので特別に働かせてもらえる事になったのでした。 そこの病院は短期入院の患者のみで、入院してから数日後には退院するか別の長期入院施設に送られるかのどちらかです。僕は一週間に一度のペースで働いていたので、残念ながら同じ患者を 2 度見る事はまずありませんでした。 そこの病院は薬物中毒患者と精神疾患の患者を受け入れていて、大きいドアにより二つの病棟は分けられていますが、朝と夜に行われるグループカウンセリングの時間はそのドアが開けられ、精神疾患病棟側にある会議室に皆集まります。カウンセリングをするのはカウンセラーもしくはソーシャル・ワーカーでトピックはその都度違います。ある時はストレスの話だったり、ある時は患者が自分で皆の意見を聞いてみたい話だったり。 余談ですが、アメリカではソーシャルワーカーの地位はしっかりと確立しています。卒業してから色々な資格を取らなければならないカウンセラーと違い、ソーシャルワーカーは大学院を卒業した時点で MSW (Master of Social Work) という資格が与えられ、カウンセラーと変わらない活動(もしくはそれ以上の事)を行う事が出来るのでカウンセリングを専攻するよりも効率が良いということで人気の分野です。 その病院では個人カウンセリングをする事はほとんどありません。バイオ・サイコ・ソーシャルといって患者の歴史、家族構成、考え等を聞き、データーとして残す事と、次の医療方針(通院、長期施設への搬送・退院)を決定するのが主な業務です。僕はもちろん、ボランティアだったのでそのような書類業務を行う事はありませんでしたが、なるべく患者と話し色々な考えを聞こうと、病棟内を歩き周り会う患者全てに話かけていました。 僕が出会った患者のほとんどはその日の朝に自分の意志、もしくは自殺未遂の為に救急車で運ばれた方ばかりで、症状もさまざまです。薬物中毒、その他にも重度うつ病、自殺・他害願望、末期がん患者 etc.. 彼らのほとんどは話かけると、とても気さくに答えてくれます。僕の事もとても気に入ってくれ、自室に入れてくれ色々なお話をしてくれたり、食事に誘ってくれたり、ビリヤードを一緒にやってくれたりしました。 ある日の事、何時もどおり娯楽室で患者の方とお話をしていると、その方はこう訊いてきました。「お前はこの病院で働いているのか?」僕は「いいえ、ボランティアとして一週間に一度働いていて、今はまだカウンセリングを専攻している大学院生です。」と答えました。すると、その患者の方は一つため息をつくと「お前のような奴が働いてくれれば、この病院ももっとよくなるのに・・」と言ってくれました。「それはどうしてですか?」と訊くと、「私は後数ヶ月しか、この世にいられないんだ。だから薬物も心理療法もいらない。でも、私の事を誰かに聞いて欲しいんだ、自分の考え、そして経験を多くの人に知ってもらい自分がこの世にいたという証を残していきたいんだ。私が医者に勧められて入院したのは、何も病気の痛みを軽減して欲しいとかいう願いではない。ここならばカウンセラーやソーシャルワーカーというプロの聞き役がいるから、自分の話をしっかりと聞いてくれると思ったのに、蓋を開けてみれば、治療の話やなぐさめの言葉、自分の考えをやっと聞いてくれたと思ったらそれはデーターに残す為。その点、お前はしっかりと聞いてくれた。私の人生の隅から隅まで知ろうとしてくれた。それが本当に嬉しかった。」その話を聞いていた隣の患者の方も「私達は病気を治す事を第一にして生きているわけじゃない。一人の人間として扱って欲しいだけなんだ。あなたもカウンセラーとしてこれから働くのならばそれだけは覚えておいて欲しい。」それから数時間、僕は彼らの人生、考え、未来をひたすら聞きました。一つの言葉も逃さないように、自分が目指すカウンセラーという職がどうあるべきなのかを知る為に。 今、僕がちゃんと皆さんのお話を聞く事が出来ているのか?というのは分かりません。ですが、僕にとって聞く事はあの日知り合った、もうこの世にはいないかもしれない方々との約束なのです。しっかりと聞く事。それは僕が出来る、その患者の方がこの世にいた証を伝え、残す事、そして一人の人間として患者を扱っていくことなのです。 ココロ夢カウンセラー 山名和樹 Mail: yamana@knhclinic.com |