第十二回 僕にやらせてください! |
当ハンティントン高校には日本語のクラスがある。先生はマーシャル大学の大学院に通う学生で、日本のある団体で1年間のトレーニングを積んだ後、本来ならば大学でGA(Graduate Assistanceの略。働く代わりに学費と生活費が少々でる)という形で日本語を教えているのだが、当学校には既に別ルートで日本語の先生を確保していた為、大学のインターナショナルオフィスが地元の高校に交渉して、大学の代わりに高校で教える事になった。 ある日、何時も通り雑用に追われていると、その日本語の先生達が血相を変えてカウンセリングのオフィスにやってきた。コピールームから戻ってくると会議室の中でシュタンスプリング先生に向かって何かしら言っているのでたち聞きすると、どうやらある生徒が先生をけなす内容をテストに書いたという話。シュタンスプリング先生はとにかくその生徒の無礼を謝り続け、その先生の気持ちを落ち着かせた後に「僕が後で話してみるから。」ととりあえずその先生を帰途に着かせた。正直、もっと僕の仕事を信用されているかと思ったんだけど、シュタンスプリング先生の元に直で行ったところをみると、「全然だな〜。」とショックを感じつつ、お昼の時に思いきって先生に「僕にその生徒をカウンセリングさせて下さい。」と言ってみた。今まで先生が言った事だけをこなしてきた僕はこれが始めて自ら率先して仕事を頼んだ分けである。元々、自分の身近にいる人達を安心させ、助けられる存在になりたいと願いカウンセラーになったのに、このケースを「俺は関係ないし。」と無視してシュタンスプリング先生に任せたらはっきり言って何で僕はカウンセラーになったのか?という事にもなるし、こういう生徒が先生を侮辱したというケースはこれからもスクールカウンセラーである限り出てくる問題だろうから、今のうちに経験しておきたかったというのもある。先生に頼んだ時の血相があまりに決意に満ちていたのか「この件は任せるけど自分の感情を率先させず、カウンセリングのプロとしてその生徒と接してね。」と軽く忠告を受けた後、午後の適当な時間にその生徒を呼び出す事にした。 敵(?)を知り己を知れば100戦危うからずという言葉もあるので、昼食を食べた後、コンピューターでその生徒の情報を引き出すと成績的には普通のそして日本語を1・2年取り続けているところからみて日本語好きの高校生。正直「そんな事する奴は絶対に日本で言うヤンキーみたいなやつで日本語は先生も優しいし簡単だから取っているみたいな奴だろう!」という先入観が自分の中であったことを反省しつつ、呼び出してみた。そういえば、自分の用事で生徒を呼び出したのも初めての事である。「実は外見は怖面のにいちゃんか?」ともまだ先入観的に思っていたけど、来たのはごく普通の高校生。とりあえず、シュタンスプリング先生のオフィスを使って話す事にした。まず、「何で呼ばれたかわかる?」と聞くと「いや、全然。」というので、「今日の午前に日本語の先生に何かしただろう?」と言いその問題のテストを見せると「ああ!」といい、「それはジョークだよ。先生まさかまともにとったの?」といい、テストを丸めて捨てようとしたので、「別にそれ捨ててもいいけど、後10枚はコピーとってあるから。」というと、「げ!」という表情でテストをこちらに手渡した。とにかく、人は全て君の冗談を好きになるわけじゃないし、無礼だと思うというような話をし、次の日に先生に謝るというので「謝らなかったら、また呼び出すから。」と忠告しクラスに返した。オフィスを出るとシュタンスプリング先生が待ち構えていたので、こういう話をしましたというと、「それでいいよ。」といわれたので一安心。 後日その日本語の先生に聞いてみると、とりあえずは照れくさそうに謝ってきて、それからは現在のところ何もしていないというので。一応一件落着。 |