第二十回 ふれあいと葛藤 (上)

僕がまかされた一人の少年。第一印象は「シャイな子」でした。彼が初めて僕の所に挨拶をしにきてくれた時、僕がアジア人だという事に驚いた様子もなくはにかみながらも「よろしく」と言ってくれ、聞いていた話とは違い、僕が言う事にしっかりと受け答えしてくれました。カウンセリングセッションの最初のステップは大抵クライアントの情報集めです。初期段階でクライアントの正確な情報をより多くつかむ事が、問題の早期解決に繋がります。お互いの自己紹介を含めながら彼の情報を色々集めていくと、彼が好きな事はどうやら遊戯王のカード集め(アメリカの子供達の間では人気です)と野球という事なので、そこから話を膨らませていきました。僕は遊戯王カードの事は何も知らないので彼が一方的に話す事をうんうんと聞くことが精一杯でしたが、野球に関しては僕も小・中とやっていたのと当時の僕のルームメートが野球好きだったのでそこからの情報で何とかその子との会話を成り立たせていました。その努力の甲斐あってか、それから僕の所にちょくちょくと顔を見せてくれるようになりました。

子供によっては自分をケアーしてくれる大人の存在に気づいた時、行動が改善されるケースも多いのですが彼の場合残念ながらそれには当てはまらず、相変わらず行動問題は続いていました。先生への侮辱、喧嘩、授業中の問題行動等あらゆる問題を起こし、毎日のようにホワイトカード(行動問題を起こした生徒に対し先生から与えられるカード。どういう問題を起こしたのかが記述され、それをもらった生徒は副校長先生か校長先生の所に行き注意とペナルティーを受けにいかなければならない)をもらっていました。

ある日、僕は彼をオフィスに呼んでこう伝えました。「もしも、ホワイトカードを一日中もらわなかったらその日ごとに遊戯王のカードを一枚挙げるよ。」彼は自分の好きな遊戯王のカードがただで貰えるとおおはしゃぎ。それから数日間は彼の行動は多少改善されたのですが、また逆戻り。さらに僕の持っていた遊戯王のカードも誰かに盗まれてしまいこの計画は断念。僕が次に目をつけたのは彼が遊戯王カードの次に好きな野球。「もしも、ホワイトカードを一週間貰わなかったらその週ごとにキャッチボールをしよう!」野球好きでも今まで、大人とキャッチボールなどした事の無かった彼はこれまたおおはしゃぎ。サックストーン先生もそれは良いアイデアと賛同してくれ、Behavior Disorder (BD)クラスの先生が僕の活動に好意的で、何時でも彼のBDクラスの時間を使っても良いということだったので、次の日さっそくその時間を使ってキャッチボールをしました。実はその前日に行動問題を起こしていたのですが、とりあえずキャッチボールの楽しさを伝えない限りは彼も努力しないだろうと考えた僕は今日は特別と彼に伝えました。11月の寒空の中二人でボールを投げあい、彼のその楽しそうな表情を見ながら僕は「きっと子供の成長にはこういう平凡な時間が一番大切なんだろうな。」などと考えていました。時間が来て「今日は終わろう!」と伝えた時、彼はしぶしぶ僕にグローブとボールを返しながら「また一緒にキャッチボールしてくれる?」と聞いてきたので「一週間、君が問題行動を起こさなければね。」と答えました。彼のキャッチボールに対する好意的な態度を見た僕はその時確かな手ごたえを感じていました。

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