第二十五回 体育館にて (中)
彼女の話によると、初めて薬に手を出したのは1年前で、兄とその彼女の影響によるものらしく、それからはその薬によって友達が増えていく事も手伝い、いけない事とは分かっていても続けていたそうです。幸い常習性は無く、普段はその仲間や兄達が薬をしているのを見ているだけで、気が向いた時にだけ服用していたそうです。

さらに話を聞くと裁判はとりあえず事情を聞く程度のもので、刑務所に収監するかどうかと言った類のものでは無いらしいのですが、「不安。」という事です。彼女は警察に捕まった後、法律によって義務付けられたカウンセリングを受けているそうで、どうやらそれによってカウンセリングに興味を持ち、僕に話しかけてきたというわけです。

僕はせっかくの機会なので彼女に対してカウンセリングを行う事にしました。このように、場所をオフィスに限らずカウンセリングを行うのはスクールカウンセラーの特異性でもあります。人に聞かれてしまう可能性もありますので、細心の注意が必要ですが、他の生徒は僕達から遠く離れた場所に座り、体育館はサッカーが始まった事で歓声等が響き渡り、とても二人の会話が他人に聞かれる状態では無いので大丈夫と判断しました。

僕の事は(T(Therapist))で表し彼女の事は(C(Client))で表します。以下に対話形式にしてカウンセリングの様子をまとめました。

(T) 薬を服用する事によってどのような友達が出来たの?

(C) その時の私は何か自分にいい加減だったと思う。学校に行ってもつまらなかったし、友達も少なかったし。寂しかったんだと思う。薬によって出来た友達でも、一応寂しさを紛らわせる事が出来たから。。でも、人としては最低の人たち。全然一緒にいてつまらない。

(T) 具体的にその人たちと一緒にいてどうつまらなかったの?

(C) 一日中、薬の話しかしてない。人生も何が楽しくて生きているんだかよく分かってない。何かその人たちといると自分も駄目になっていくと感じてたの。でも離れていく事はできなかった・・・。

(T) それは良い発見だね。薬によって自分が駄目になっていくと発見するのは自分の人生に責任を持ち始めた証だよ。

(C) 私大学も出たいし、これから先自分の夢みたいなのも見つけていきたいし・・。私、今回カウンセラーと話す機会があった事と、あなたと知り合った事から心理学に興味を持ったんだ。心理学ってどんな勉強をしていくの?

(T) 人の心や行動についてだけど、本当に統計学を使った学問だよ。別にカウンセラー全てが心理学に精通しているわけじゃなく、カウンセラーはカウンセラーとしての特別な教育を受けるんだよ。もちろん、基本的な心理学の知識も学ぶけどね。僕はたまたま大学でも心理学だっただけだよ。

(C) そうなんだ〜。カウンセラーになるのって大変?

(T) まあ、大変と言えば、大変かな?4年生の大学を出た後、さらに3年間大学に行かなきゃならなし、こうやってインターンもしなければならないし・・・。

(C) そっか〜・・・。

(T) でも、やりたい事を一つにする必要はないと思うよ。幾つもやりたい事を持ち、将来的に絞っていけばいいんじゃないかな?

(C) そうだね。私他にも、作家にもなりたいし、ミュージシャンにもなりたいし、ダンサーにもなりたいし・・・

(T) そんなに色々な職業やったら億万長者になれるよ (笑)

(C) (笑)

このカウンセリング初期段階では彼女の「夢」という部分に焦点を当て、現在の社会生活の重要性、そして自己価値の高揚を促しました。こうした簡易認知療法的カウンセリングを行う事により違法ドラックを服用する事の意味の無さの深い理解、そして健全な環境作りをクライエントの力で行えるよう援助します。最後にちょっとしたユーモアを入れたのは、暖かい雰囲気とリラックスしたムードを作るためで、そうする事によりクライエントがより話しやすくなるからです。

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