第八回 ある少女との出会い

ハンティントン高校での仕事も慣れてきたある日、何時もどおりの雑用が終わり、シュタンスプリング先生のオフィスに戻ってくると一人の女の子が椅子に座っていた。なるべく多くの人間に学校内では挨拶しようと決めていた僕は(実はあまり達成できていないけど・・・)普段からちょくちょくオフィスに来ていた子というのもあり、良い機会なので自己紹介をした。何時もどおりの「僕の名前は山名和樹で、マーシャル大学のスクールカウンセリングインターン生としてこれからしばらくここで働きます。」というフレーズを言うと、彼女も短く自己紹介をしてくれた。次に質問することは僕の場合、大抵「どいう理由でオフィスに来たの?」である。ちなみに、僕は初対面がものすご〜〜〜〜く苦手だった。今となっては仕事で初対面は必然ということもあり、ある程度克服できたが、今だにその癖が場面場面で顔をだす。皆が皆にすでに決まっている質問を最初にするのはその現われである事は言うまでもない。彼女は活発な女の子ですぐに打ち解ける事ができた。会話もひと段落ついた瞬間、彼女は急に「昨日彼氏と別れたの・・・。」と言ってきた。大抵、学校で生徒が自分の問題を話してくれる時は急である。何も前振りもなく、いきなり問題を話しだす。その事になれていなかった僕は少々面食らったがとりあえず落ち着いて話を聞いてみると、彼は理由もなく一方的に別れを切り出してきて、電話も一切取ってくれないという話。でも、彼女はまだ、彼の事が大好きなので友達でもいいから近くにいたいということ。彼は高校卒業の後、大学もいかず、就職もない、今、日本ではやりのNeetという奴である。しかし、それは今は特に問題はない。彼女が「彼と出来ることならよりを戻したい。」という言葉が全てである。なので、僕は「じゃあ、今電話をかけてごらん。」と彼女に言った。彼女は「でも電話には出てくれないよ〜。」というので、僕は「でも、どんな形でも話してみないと何もわからないよ。何が起きて、そうなった(別れる事になった)のか知りたいでしょ?」と聞くと、彼女はうなずいた後、電話に手を伸ばした。一回目の電話・・・一回呼び出し音を鳴らした後に彼女は切って「やっぱり怖い・・・・。」と言った。でも、僕は「何かしないと何も始まらないよ。」というと、彼女はもう一度電話をかけた。二回目の電話・・・・電話に出たが直ぐに切られる。僕は「もう一度。」と言い、彼女はもう一度電話をかける。3度目。今度は留守番電話につながる。僕は「じゃあ、メッセージを残してごらん。」と言うと、彼女は「何て?」と尋ねてきた。僕は「僕たちがずっと話し合ってきたことだよ。」というと、再度電話をかける・・・。4回目の電話・・・留守番電話に繋がったとたんに切る。「やっぱり出来ない!」と彼女は言うと「自分が出来る限りのことをしてごらん。」と僕は言った。5回目の電話・・・留守番電話に「私・・・・(彼女の名前)です。」というメッセージだけを残してきる。「やっぱり駄目だった〜。」と彼女は言うと、僕は「いや、それでいいんだよ。きっと彼にも君の気持ちは十分伝わったはずだよ。」と言った。そのやり取りが終わるとタイミングよく、シュタンスプリング先生が帰ってきて、僕と彼女のセッションは自動的に終了になった。後日、彼女はオフィスに来て「彼と縁がもどった〜。」とうれしそうに僕に報告しにきたのでした。どんな男でもちょっと前まで好きだった女の子が何回も電話かけてき、そして最後には声を震わせて一言だけ留守番電話に残してくれたら、ぐらっとくるものである。

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